「っ!」
俺を呼ぶ声に振り向くと、姫が俺に向って飛び込んでくるところだった。
しっかりと受け止めると、嬉しそうに笑う姫の声が耳まで届く。
何が嬉しいのだろうか、分からないが背中に回した手に喜びが溢れていたから、あえて問わなかった。
姫が嬉しいのは、いい事だ。
「姫、どうかしましたか?」
「の敬語、中々抜けないね」
俺がそう返すと、少し不機嫌そうな姫の声が聞こえる。
実際、表情も不機嫌だった。
「姫。姫相手に敬語を抜けというのもどうかと思いますが?」
「でも、何か他人行儀じゃない?」
「俺はそんなこと思ってませんけどね」
「じゃ!」
「駄目ですよ、姫」
「・・・・・・頑固」
ついに頬を膨らましてしまった。
可愛らしい姫。俺の心を捉えて、離そうとはしてくれない。
それをこのまだ何処か幼さの残る姫は気付いているのだろうか。
俺は姫の頭を優しく撫でて、微笑を携えていた。
「頑固で構いませんよ」
「私は構うの!」
「姫?もし姫が王になられたら、どうするおつもりですか?」
今からこんな調子で、と付け足して言う。
姫はケロッとした顔をして、さも当たり前の様に俺に告げる。
「変わらないよ。には敬語使ってほしくないもの」
「・・・・・・それでは家臣や民に示しが付かないでしょう」
「ちゃんと理解してもらうまでだよ!は、私にとって大切な人だって」
そうして、またあなたは俺の心をあなた以外へ向けさせない。
無自覚なのか、はたまた計算しているのか。
どちらにしても、性質が悪い。
俺は姫を先ほどよりも少し強く抱きしめた。
(20080222)