「心配する振りはやめたらどうだ、弁慶」
は体に包帯を巻き付けて、陣の外に言い放つ。
「心外ですね。僕は本当に君を心配しているのに」
弁慶がいつもの微笑みを浮かべて中へと入ってくる。
は横になっていた体を起こし、弁慶を睨みつける。
弁慶はそんなを見て、満足そうな顔をした。
「まだ傷口を縫合したばかりですよ。動いてはいけません」
パシッ――
体を支え寝かそうとする手をは思い切り振り払う。
弁慶は払われた手を黙って見つめた。
は相変わらず睨みをきかせていた。
弁慶は口許に軽い笑みを乗せる。
(この男は・・・!)
は頼朝の姪で源氏軍に入り、九郎の元へ配属になった。
その時から、弁慶を快く思ったことなど一度もなかった。
幼き頃より頼朝の側に居たは、他人に対して敏感になっていた。
他人が何を考え、企んでいるのか。
自分はそれを見抜く力があると確信していた。
だが、初めてだった。
この様な、男、は。
「意地を張っているのですか?」
「意地・・・?」
「今までの戦では、今回のような大きな怪我をしたことはなかった」
「・・・だから私がそれを恥じていると?」
弁慶は言葉の代わりに頷く。
確に武士としての誇りもあった。
だが、それくらいで私が意地を張るとでも思っているのか、この男は。
ふざけるな、と一喝しようとしたが、傷口が痛んだ。
小さく聞こえないようにうめくが、この男には聞えたようだ。
「あぁ、やはり傷が痛みますか」
「っ、うるさい!」
は片腕に受けた傷を押さえる。
そこの傷が一番深かった。弁慶はの横に腰を下ろす。
は訝しげなな顔をしたが、弁慶は無視を決め込んでいるようだ。
弁慶の手がの腕へと伸びる。
は逃げようとしたが、その瞬間弁慶が勢いよく腕を掴む。
「っ何をする!」
「、君は、理解していないのですか」
「何を言―っ!」
の傷口に指を這わす。
少し力を加えるとの顔が苦痛に歪む。
その様子を見ていた弁慶は至極嬉しそうであり、楽しそうだった。
加える力に波を持たせてやると、敏感になっている傷口から説明出来ぬ感覚が沸き上がりを苦しめる。
「やっ、やめ―」
「僕は、君を
壊されたくないんですよ」
弁慶は口許を傷口に寄せ、舌を這わす。
生暖かい舌が、這いずり回る感覚がある。
「なっ、べっ弁慶!」
「君を誰にも壊されたくない。もし、君が壊れる時は・・・僕の手で、君を壊す」
上目使いでを見つめる弁慶。
漂う妙な妖艶。
は弁慶から目を離すことが出来ずにいた。
弁慶は両手でを顔を包みこんだ。
愛していると言ってくれ