本来、こんなことしていてはいけないんだ。
「!」
「、景時」
この世のものとは思えない程綺麗に微笑む。
オレと彼女は相容れてはいけない。
光輝く庭で見たファントム
「変わり無い様だね」
「あぁ、景時も」
「オレの方はね。でも、案外忙しいんだよ?」
「なら、毎日ここに来る時間を省けばいいのに」
「だーめ。オレの唯一の心の安らげる時間を奪う気かい?」
禁断の森と呼ばれる森の中で、魔物が住むといわれている湖で。
オレとは毎日会っていた。
オレは湖のふちに腰を下ろして、を見ていた。
は木々が湖の上まで伸ばした太い枝に腰掛け、水に足を浸している。
白く細い足は、強く握れば容易く折れてしまいそうなほどだ。
毒々しいほどの青で満たされている湖は、の足の色さえも己の色に見せていた。
「仕事、そろそろじゃないの?」
「あ〜・・・・・そうなんだよねぇ」
「誰?」
「えーと・・・・確か、オークだったかな?ほら、西の方にある洞窟に住み着いた」
「あぁ・・・・あの子たち」
オレがそういうとは不意に寂しそうな顔をする。
それもそうだ。
彼女にしてみれば、同じ仲間なのだから。
「・・・・・・・哀しいかい?」
「哀しくは無い。寧ろ寂しい」
「寂しい・・・か・・・・・ねぇ、話してくれない?」
「え?」
「西のオークのこと。から見たあいつらって、どんな風なんだい?」
「・・・・・・・・・・・」
「え、どうかした?」
「景時って、本当に変わってるね」
「そうかな?」
「そうだよ」
そういうと、自虐的な笑みを浮かべては続ける。
「ハーピーである私と、こうして会ってるなんて」
ハーピー。
美しい外見と、美しい歌声を合わせ持つ女のモンスター。
鳥の羽根を持ち、その歌声は海を荒らし、船乗りたちを殺してしまうこともある。
彼女たちに魅入られた者は、己の生気を吸い取られることに気付かず、その内死んでしまう。
守護者であるオレは、人の生活や命を脅かすモンスターを退治・駆除するのが役目。
その日も、すぐに終わらすはずだった。
「結界・・・・・・ここまで手の込んだ結界も珍しいな」
オレはその結界を解いて、中へと、湖へと進んでいった。
「湖・・・。すごいな」
「ここまで来るなんて・・・・・何考えてるの?」
「? 何処だい?」
「態々己を殺す相手の前に姿を現すと思う?」
「ハハ、確かに。じゃ、殺さないって約束すれば出てきてくれるの?」
「何処まで信じられる約束だか」
「信じてよ〜」
嘘。
殺すのが目的なんだから、そんなことしないはずが無い。
でも・・・・・
「ここだ」
目の前に下りてきてくれたのは、モンスター所か、天使だった。
真っ白な羽根に、緑色のグラデーションのワンピースを来た、女の子だった。
モンスターなんて、言葉で彼女を表すのは失礼だと、感じた。
もっと高貴な、至高の存在だ。
今日もに会うために、何時もの場所へと向かっていた。
「あれ・・・・?」
何時もの結界が解かれていた。
あの結界は村の人間が入り込んでも自分の所まで来ないようにという彼女の配慮だった。
なのに・・・・・・・・・・胸騒ぎがした。
「っ!」
湖に来ても、の姿は何処にも無かった。
代わりに、彼女の白い羽根と、赤い血が所々に落ちていた。
どうして?
「ーっ!!」
「、そんなに叫ばなくても、聞こえてる・・・・」
ふらっ、とは羽根の抜けたボロボロの翼でゆっくり落ちてきた。
慌てての下に行くと、彼女は力がすっと抜けたように重力に従ってオレの腕の中に納まった。
綺麗だった髪の毛も、翼も、服も、肌も、手も、足も、顔も、全てが傷つけられていた。
「!?どうしたんだ!一体何が・・・・!」
「こっちが、聞きたいくら、い・・・・いきなり、来て、、必死に逃げて・・・」
「おう!梶原さん!大丈夫かい?」
「奇襲かけたら一発だったぜ!」
「これで、村も安心だ」
何処から湧いたのか、オレの後ろで村の奴らが、好き勝手に話してる。
一体何が起こったのか、彼らは一体何を話している?
腕の中のは、微かに息をしているだけ。
オレはを地面に寝かした。
「けどよ、綺麗な面してるよなぁ」
「あぁ、まったくだ」
「なんなら、殺す前に一発ヤっちまってもよかったかも知れねぇよな」
「やめとけ。相手はあのハーピーだぞ?どんな呪いが掛るか分かったもんじゃねぇ」
俺の中で、何かが音を立てて崩れた。
「あのさ、」
「んぁ?何です?」
「どうかしましたか?梶原さん」
「彼女を傷つけたの、君たち?」
「あぁ!すごいもんでしょ?俺らだってやろうと思えば出来るってことですよ!」
「そうなんだ。君たちが」
己の勝利に酔いしれる彼らは、きっとオレの声に感情が篭っていないのに気付かないだろう。
オレは銃口を彼らの内の一人に向けた。
彼は何が起こっているのか分からない顔をしている。
オレが普段浮かべることの無い表情を浮かべてることすら、彼にとっては困惑の原因だろう。
他の奴らが止めるのを聞かず、オレは迷い無く引き金を引く。
赤黒い血が草を穢していく。
倒れると同時に、他から悲鳴が聞こえる。
全員殺すのに、そんなに時間はかからなかった。
これ程簡単に消える命が、彼女の崇高な命を消そうとしていたのかと思うと、殺したり無い。
もっと苦しみを与えて殺すべきだっただろうか。
だが、醜い呻き声を聞きたくも無い。
結果的に、不満だが、これでいいのか・・・・・
「・・・・・大丈夫かい?」
「かげ・・・と、き・・・・」
「大丈夫だよ、きっと助かる。助かるから・・・・・」
「無理だよ、景時」
「っ無理なんかじゃない!!!」
「現実を、見るんだ・・・・景時・・・私は、もう助から、ない・・・・」
「助かる!オレが助けてみせる!!!」
「頼もしいな・・・・だが、お別れだよ・・・」
あぁ、こんな時でさえ、彼女は笑うのだ。
オレは涙を零しているのに、は笑っている。
何時ものように、綺麗な笑顔だ。
「好きだったよ、景時・・・・・愛して、いたんだろうな・・・・きっと」
そう言い残して、はその瞳を閉じた。
「オレの返事も・・・聞いて行かないのかよ・・・っ!! ねぇ!!!!!」
何を言っても、は反応しない。
「あぁぁああぁぁあぁあぁああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁあ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ファントムを見た庭は、今もなお綺麗に輝いていたのに。
(20070806)