今はもう使われなくなった、屋根裏部屋。
そこには、ある宝物が眠っているんだって。



えー、嘘言うなよなー。



嘘じゃないもんっ!
おばあちゃんが言ってたんだもんっ!



お前のばあちゃん色んなこと言うけど、嘘ばっかじゃねぇかよ。



嘘じゃないもんっ!
だって、どのお話も嘘だって言えないもんっ!
ドラゴンのお話も、妖精さんのお話も、嘘だって言えないもん!






















握るマスターの手。
こんなに、小さかっただろうか?
こんなに、細かっただろうか?
オレの記憶してるマスターの手との違いに違和感を感じずにいられない。
最近はパソコンに触ることでさえ難しくなってきてる様子だ。
一日中寝てる事だってよくある。
苦しそうに息を吐き出して、顔色を悪くしながら。

それでもマスターはオレに、オレの好きな笑顔をみせてくれる。




「カ、イト・・・」
「どうかしましたか?マスター」
「ごめんね・・・・?曲、作って・・・・・っ」
「無理しちゃ駄目ですよ。マスターが元気になってから、その時にまた作ってください」
「・・・・・カイトは優しいね・・・早く、治すねー・・・・」





お世辞にも綺麗とは言えない笑顔だと思う。
酷く青ざめた顔で、額に汗をびっしょりかいて、肌は病気特有の荒れ方をしている。
それでも、マスターは・・・・・綺麗だ。



「こーんな、情けない恰好みせられるの・・・・・カイトしか、いないね・・・・」

マスター

「でも・・・・・カイトで、よかった、なぁ・・・・」

マスター

「ねぇ、カイト・・・?こんな、マスターで・・・ごめんね・・・・」

マスター

「ず、と・・・・・いっしょに・・・・・・・いた・・・・・か・・・・」

マスター





「ずっと一緒ですよ。マスター。これからも、俺はマスターの側にいますよ」


そう、俺はマスターの側に居る。
側じゃなきゃ俺は存在し得ない。
俺が俺で居るためには、マスターが必要不可欠なんです。
ねぇマスター。
聞いてますか?
ね、マスター。側にいます。あなたの側にいるんです。いたいんです。

だから、泣かないで下さい。







「っ、か・・・・い、と・・・・・・!」

「はい?」



ちゃんと俺は笑顔でいられているはずだ。
泣くことは出来ない。
俺は"生きて"いないから。



「マスター、大好きです」


「っ・・・・・」


「俺はあなたが大好きです。過去なんかじゃありません。
 現在、未来の話です。あ、昔嫌いだったって訳じゃないですからね!」









俺が慌てて否定すると、起き上がる力もないはずのマスターは俺に抱きついてきた。
倒れないよう咄嗟に抱きしめたのは、どうしてだろう。



耳元で聞こえる、マスターの泣く声。
そして、一言。
最後の力を振り絞って出したような、声だった。












「・・・・・・・・・・・・ありが、と・・・・・・・・」





















俺はどこにいるんだろう。
俺は温度を感じることが出来ない。
だから、今が夏なのか冬なのかも分からない。
ただ、ここは暗い。
思うように体が動かない。


腕をあげようとすると、ギギッと嫌な擦れるような音が響く。
歩こうとしても、足の感覚が無い。
あたりを見ようと目を開けようとしても、何も見えない。
歌を歌おうにも、"音"が出てこない。


俺はどうなっているんだろう。
俺は・・・・・・マスター・・・・・・・?
あなたはどこにいるんでしょうか?

最後にくれたあなたの音が、耳から離れないのに、メモリから抜け落ちていきそうなんです。

本来俺たちのメモリは歌を覚えるから、容量はとても多いはず。
入ってくる情報を100年くらい貯蓄できたはずだ。

なのに、どうして入ってくる情報もないのに、抜け落ちてばかり行くんだろう。


ねぇマスター。
あなたはどんな髪の毛をしていましたか?
あなたはどんな瞳の色をしていましたか?
あなたの肌はどんな手触りでしたか?
あなたの歩幅はどのくらでしたか?
あなたの声はどんな音色でしたか?
あなたの笑顔は、どれほど素晴らしかったですか?





ねぇ、マスター。
あなたに、あいたいです・・・・・・・・・
・・・・・・・・・あい、た、い、で、す・・・・・・・・・・





















嘘じゃないもんっ!
おばあちゃんのおばあちゃんのおばあちゃんお話だもん!
嘘じゃないよ!



んな昔のお宝、あったって、今でもお宝って呼べると思うか?



分からないよ。
呼べるかもしれないよ?
ひょっとしたら、わたしたちお金持ちになれるかも!



アホらし。
俺帰るー。



あー!待ってよー!













頬に感じた暖かさは、
    マスターですか?