一体何日ここに居るのか分からない。
一体何時間ここに居るのか分からない。
一体何故ここに居るのか分からない。
分かる事はただ一つ。
「失礼しますよ」
彼が全ての元凶であるということ。
嘘塗り
部屋に入ってきた彼は人のよさそうな笑みを浮かべている。
それが彼の偽りであり、真実だ。
私は彼に視線を向けることなく座っていた。
何不自由なく、欲しいといえば全て与えられる状況。
そんな状況にうんざりしていた。
誰も何も要らない。
欲しいものは、手に入らないと知っているのだから。
「どうかしましたか?」
彼は私の後ろに回りこみ、腰を下ろして私を抱きしめる。
彼の焚いている沈香の香りが私まで包み込みそうになる。
吐き気がした。
だが、どうすることも出来ない私はそこにあるしかないのだ。
彼の柔らかい髪の毛が私の首筋に触れてくすぐったく感じる。
「相変わらずあなたからはいい香りがしますね」
「そうですか」
「私の焚いている香ではない。あなたの、香りが」
そして彼は私の首に顔を埋める。
そんなことをして、何になるのだろう。
私はいつもそんなことを思っている。
もちろん、思うだけだ。
それ以外はしない。
それ以外の行動をしようとは考えない。
彼の気が済むならそれでいい。
だが、それで私も何になるのだろう。
無意味なのは、お互いなのかもしれない。
「・・・」
不意に彼が私の名を呼ぶ。
だから私は返してやるのだ。
「重衡様」
彼の名を、呼び返してやる。
そうすれば、少なくとも今この場で私がどうこうされるということはない。
ずっと居た。
だから、自然と体が覚えるのだ。
分かりたくないと思っても、願っても祈っても、頭は私の意志とは関係なく理解してしまう。
彼が今何を望んでいるのか。
自分の身を守るためにはどうしたらいいのか。
だけど、彼は時々私の思考の範囲を超えた行動をする。
「っ」
「綺麗ですね。あなたの白い肌に咲く赤い花弁の花は・・・」
「重衡様っ」
「何ですか?」
彼はこういう男なのだ。
それは一番私が知っているはずだった。
それは自惚れでは無く、事実。
怒ろうとしたが、結局それも無意味だと冷めた。
私は、彼に毎日聞いている事を聞く。
そして、その返答はいつも決まっている。
まるでいたちごっこ。
「いつ、私はここから出られるのですか」
「きっともうすぐですよ。私だってあなたをこの様な所に留めておくのは心苦しい」
「以前から、もうすぐと仰いますね」
「・・・仕方ないのですよ、」
彼は私を自分の方に向け、唇をあわす。
甘く痺れるような感覚は無い。
それは私の中で行為でしかなく、そこに伴うはずの感情などが欠落している。
だからなのだろうか。
彼が私を組み敷く時でも私は何もしない。
何も感じないのだ。
拒否する事も、拒絶する事も、彼を傷つけることも、私は何も出来ない。
出来る事は、心まで組み敷かれないこと。
私は今日もまた、彼の嘘を飲み込み、彼の嘘に体を委ねる。