あなたのその目が
今私を映す
その事実だけで十分なんですよ
切なさを憎んで
御簾を上げて庭の風景を見ている。
決して共に居る重衡のほうを見ようとはしなかった。
それを楽しんでいるかのような重衡の笑み。
慈愛に満ちた笑みだ。
愛しい者を見つめる時の笑み。
瞳には本人さえ自覚していない優しさが潜んでいた。
重衡はの隣に座り、庭に視線を移す。
「美しいですね」
「外は、私が持ち得ないものを全て持っています」
「そうですか。ですが、愛情、までは持ち合わせていないでしょうね」
「愛情・・・・?」
は柳眉を寄せて怪訝な顔をした。
「おや?あなたは愛情を受け取っていないとお思いでしたか?」
「もし、重衡様の仰る愛情というものが、このような不自由でしたら、私はそれを愛情と認識できません」
「おやおや手厳しい」
その後、重衡は一言も話さないようになった。
不審に思ったが見てみると、の肩に頭を預け眠っていた。
これ程無防備な姿を見たことの無かったはある一種の困惑に翻弄されることになった。
いつもの妙な余裕を携えた顔ではなく、幼くあどけなさが残る寝顔。
こんな人が何故、それがの頭を掠める。
根は優しく、穏やかな人なのだろう。
だが、時折見せるあの顔が、のその思考を糸も簡単に打ち消してしまう。
一体いくつ顔を持っているというのだ。
がため息をつくと、その振動でか重衡の体が倒れてきた。
「ぅわっ」
「・・・・」
重衡は静かに、ゆっくりとの膝に頭を置く。
規則正しい寝息が重衡がまだ眠っているという事をに知らせる。
「落ちた事にさえ気づかないなんて・・・」
一体どれ程疲れているのですか。
口に出さずとも、心の中でぼやいてみた。
この時間帯、重衡の言いつけでを見張っている女房たちも重衡本人が居るのだから、近くには居ない。
だから、このような姿を見せるのか。
普段上から重衡を見下ろす機会などないは不思議な感覚に陥っていた。
何故か、その寝顔がとても愛しく思えたのだ。
重衡のしている事を、絶対許すはず無い。
なのに、一体どうして・・・・
の持つ疑問に答えてくれるような人物は居ない。
重衡が起きるまで膝を貸し、また自らも柱に寄り掛かり共に惰眠を貪った。