あなたを見たとき胸が焼けるようでした。
その感情を何と呼べばいいのか、私には分かりませんでした。
恋や愛ではない事だけは確かです。
ただ、その瞳に私を映してくれればいいなと、あなたの熱を私が感じられればいいなと。
願い焦がれて祈り焼きつく
「重衡様!兵がすぐそこまで迫っております!」
「慌てずに対処しましょう。何人くらいです?」
「はっきりとはしませんが・・・・女が将のようです!」
「・・・女人が?」
「率いてる兵も高々10人程度らしいのですが、強さが半端無いくらいっ」
「様!このまま行けば今回の手柄は様のものに御座いますな!」
「話は後だ!今はこの戦に勝つ事だけを考えろ!」
「はっ」
「様!まもなく敵陣で御座います」
「確か、今回の将は・・・」
「平 重衡と聞いております」
「あまり、武勇を聞かぬな・・・」
「そんなこと御座いませぬ!平 重衡は、兄知盛と並んで─」
「知盛殿の噂は知っている。だが、重衡・・・・」
「様!あれが重衡にて!」
私が陣の前で待ち構えていると、確かに女人の将が兵を率いてやってきた。
長い髪を一つに括り、惜しみなく風に晒すその姿に私は目を惹き付けられた。
戦女神とでも、呼んでいいのかもしれない。
いや、女神よりも尚神々しいその姿。
私はこの時、切り伏せられていく私の兵を羨ましくさえ思った。
同時に、その瞳に見つめられている事実に妬みを。
「っ、あなたが・・・平 重衡・・・」
「あなたは・・・」
「成る程。それだけ顔が似ていれば、知盛殿と間違えるはずだ」
「兄と?」
「いや、名乗り遅れた。私の名は。平 重衡殿とお見受けする」
「殿・・・そうですか」
彼女の名を知っただけだったのに、知らない者に比べて優越感を得た。
殿のほうを見ると、彼女も私を見ていた。
お互いの瞳にお互いしか映らない。
その事実にどうにかなりそうだ。
今すぐ彼女を攫い、この胸に閉じ込め、泣いて許しを請うまで抱こうか。
そう思うと、そうしたくてたまらない。
どうすればよいのか。
考えずとも、答えなどすぐに出た。
「手合わせ、願えますか?」
「無論。御印頂戴いたす」
彼女を守っている兵は私の兵に任せ、私は彼女の相手をした。
間近で見た彼女はやはり美しい。
汗で頬に張り付く髪の束や、悔しそうに歪める口元。
全てが私に囁き、私を欲情させた。
艶やかな殿。
それが、私のものとなる日が来るのだろうか。
殺しはしたくない。
彼女を攫う手段は、一つしかないのだから。
誰にも知られずに、殿を攫う。
「どうして本気を出さない」
「おや、ばれていたのですか?」
「私を甘く見ないでいただきたい」
「甘くなど見ていませんよ。ただ・・・・」
「っ」
刀を合わせ、顔を殿の耳元に口を寄せ囁く。
「私は、あなたが欲しいのですよ。あなたの全てが・・・」
「な、にをっ!」
耳から離し、彼女と顔をあわせる。
お互いの吐息が感じられる距離。
そこから見た彼女の瞳は透き通っており、どのように美しい石にも負けないと思った。