閉じた瞼は美しくて、憎らしかった。
彼女の瞳を覆い隠してしまっていたから。
さぁ 早く目を開けて。
そして私を見てください。
君の音そして終わる 心臓
「あぁっ!」
「おや、どうしました?もう終わりですか?」
「そんな、馬鹿なっ」
いくら強いと言っても所詮は女人。
男である私に敵うはずも無い。
少しずつ押されていく。
悪態をつくが、それさえも強がりに見える。
そしてそれが愛しい。
ぶつかり合う剣。
聞こえてくる吐息。
あぁ、欲しい。
ただ彼女が、というこの女性が欲しかった。
「そろそろ飽きてきたでしょう?」
「っ」
(こいつ・・・それ程余裕があるのか?!)
彼女の焦りが手に取るように分かる。
だからこそ、笑みが零れる。
それが余計に彼女を追い詰めると知っている。
自分が何をしているのか、よく分かっていない。
ただ、欲しいという欲望しか見えなかった。
「もう貴女の兵も数が少ないですよ?」
「だがっ、貴方を取れば勝つことは可能だ!」
「強情な人ですね。けれど・・・・」
私は彼女との距離を一気に詰める。
彼女は慌てて距離を取ろうとするが、こちらが早いのは分かっていた。
「もう終わりにしましょうか」
「なに、を」
手刀を首筋に軽く落とす。
これが一番手荒な真似じゃないから。
意識を失った彼女は、私の手の中にすぅと落ちてくる。
時間がゆっくりと流れているかのように感じた。
彼女の髪の毛がふわりと風に舞い、彼女の顔に降りる。
何と美しいのだろうか。
手の内に収まってしまったその細い体、滑るような手触りの肌。
今すぐ抱き上げ、口付けたい気持ちを押しとどめ、彼女を木に凭れさせる様に寝かせる。
「重衡様っ!敵軍、殲滅いたしましたっ!」
「我等の勝利にてございます!」
「そうですか、こちらも片付きました」
「強いといえ、所詮女人!重衡様の相手ではありませんでしたか!」
好き勝手に彼女を批評する。
私は、その一人に近づいていく。
「どうかされましたか?重衡さ―」
「うるさいですよ?」
「ぐぁぁぁぁああああぁぁぁ!」
鞘から抜いていた刀で、下から上に男の体に沿わす。
綺麗に作られた一筋から、鮮血が流れ出る。
他の兵も、同じように切り刻んでいく。
どうして?
何故あなたが私たちを切るのですか?
お気を確かにっ!
色々叫ばれている。
だが、もとよりこうするつもりであた。
私が敵将を連れ帰ったとなれば、問題以外の何物でもない。
それに、ばれてしまえば彼女の身の安全は保障されない。
彼女を敵将から、一人の女性にする必要があった。
見ている人間は・・・・・邪魔ですから。
「しげ・・・・ひ、ら・・・さま・・・・・」
「申し訳ありませんね。ですが、彼女のためなんです」
最後の一人の息の根を止める。
着物が味方の血で真っ赤に染まってしまった。
こんな着物で彼女を抱くのは忍びないけれど、致し方ない。
「、さまぁ・・・・・」
「?」
声がした方を向けば、口から血を流し、それでも彼女に近付こうとしている兵が居た。
"様"と呼んでいるから、彼女の部下だったのでしょう。
這いずってまで、彼女を慕うその思い。
彼女の人間性に惹かれていたのか、それとも・・・・・・・・
「お気を、確かに・・・さ、ま・・・・・」
彼女の頬に手を当て、呼びかけている。
血で、彼女の肌が汚れていく。
「このような所で、捕らわれて、如何、するのです・・・・早く、様・・・っ」
「申し訳ありません」
「っぐ、ぁ・・・・・」
「彼女は、もうあなたの"様"ではないのですよ。"私の"ですよ」
雨が降ってきた。
このような所に居ては、風邪を引いてしまう。
さぁ、帰りましょうか。
抱き上げた彼女の白い肌に、雨雫が落ち、美しく彩った。